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「彼らは私を、理由なく憎んだ」

  舞台装置をどうするかは演出家にまかせるとしよう。世界という舞台でもよいし、運動場という舞台でもよい。そうした細部はさして重要ではない。核兵器配備の軍拡競争の話でもよいだろうし、携帯電話の最新モデルの話でもよいだろう。とにかく二人の登場人物が、ある対象をめぐって争っているとしよう。どちらも、その対象の入手を相手が阻止すればするほど、いっそうその対象を入手しようとする。争いは熾烈になっていき、やがて対象はその重要性を失い、まったくどうでもよくなってしまう。争う両者は、それでもなお何かのために戦い続ける。少なくともそういう印象を与える。だが実はそれは、彼らが「面目」とか「威信」とか呼ぶもののためなのだ。つまり、(「威信の」)語源が示すように、何でもないもの、理由のないもの、何かの幻想にすぎないもののためである。しかしながら、憎悪は両者の間でひたすら高まっていき、一方の側の憎悪は他方の側の憎悪によってますます煽られ、両者はいっそうわかちがたくなっていく。もはや両者の間に割り込むものなど何もなくなり、世のいかなる対象をもってしても両者を引き離せなくなる。この段階にいたると、彼らはすべてを吹き飛ばしてしまうことさえ厭わなくなる。自分自身や、まわりの世界もろとも。

 

ジャン=ピエール・デュピュイ『ツナミの小形而上学』(嶋崎正樹訳)